『シン・エヴァ』を前におさらい! 教えて氷川教授!「設定資料からエヴァンゲリオンをもっと楽しめるようになる講座」【公式】 スペシャルレポート!
2019年10月18日(金)、渋谷のイベントハウス・東京カルチャーカルチャーにて【全記録全集ソフトカバー版「:序」「:破」 発売記念】『シン・エヴァ』を前におさらい! 教えて氷川教授!「設定資料からエヴァンゲリオンをもっと楽しめるようになる講座」が開催されました。
知っているようでよくわからない、設定資料の見方を中心に、『シン・エヴァ』公開を前にエヴァンゲリオンをもっと楽しめるようになる講座と題してエヴァンゲリオンの情報サイト「エヴァインフォ」で公式レポーターを務める野呂陽菜さんを進行役に迎え、アニメ・特撮研究家/明治大学大学院 特任教授の氷川竜介さんにお話を伺う本イベント。氷川さんは、エヴァンゲリオン公式ライターとして、新劇場版各タイトルの劇場販売用パンフレットや、DVD/Blu-rayソフトでの執筆、そして、映画の公式資料集『全記録全集』では、取材・執筆・構成協力として、スタッフインタビューなどを手掛けられています。庵野秀明監督が理事長を務める、特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構の理事も務められています。
この日の内容についての打ち合わせ時点で2時間以上かかったということで、1回では到底網羅できないのを覚悟の上で早速講座本編へ。このレポートでは当日の内容を簡潔にかいつまんでご紹介します。※当日は100名を超すお客様にお越しいただきました。ありがとうございました!
氷川竜介教授(以下:氷川):設定って、用語として広く知られているわりに、なぜそれが必要なのか、正確な理由がアニメ雑誌やムックにあまりしっかり書かれてないんです。
MC 野呂陽菜(以下:野呂):アニメ雑誌なんかだとキャラクター・デザインが載っていることはありますよね。
氷川:キャラクター・デザインはわかりやすいですよね。そのキャラクターはこのような容姿で、このようなプロポーションで、このようなアクセサリーを着けていてということが描かれています。うまいキャラクター・デザイナーさんは着ているものだけではなく、バックボーン、キャラクターの性格や普段の生活が見えるような要素も含めて描きます。貞本(義行)さんの場合は特にそういう付加情報をとてもうまく描かれていますね。絵の設定と文字で書かれた設定が別々に用意されることももちろんあります。いろんな人が作業する上での根拠、必然性を絵の形にしたのが設定資料集、設定書、現場ではキャラ表と呼んだりもします。
野呂:エヴァンゲリオンの現場に今日初めて入りますっていうスタッフでもすぐに作業に入れるということですね。
氷川:そうです。あるいは副次的にフィギュアを作りたいと思ったら、設定資料を見れば立体化も可能なわけです。例えばミサトさんの首のうしろってどうなってるの? そんな時に、設定を見ればどこかに描かれているはずです。
野呂:すべてのスタッフさんの共通資料なんですね。
氷川:絵コンテは、美術設定で決められた空間、例えばこの部屋ならどのくらいの広さで、僕と野呂さんがどのへんにいて、カメラをどこに置いて撮るか、どのくらいの長さでどんなセリフをどのように語り、どこでカットを切り替えて見せるか。そういう映像的な要素の流れをお客さんが飽きないように設計するものです。
野呂:段取り表みたいな。
氷川:そうですね。ただ、宮崎駿さんはアニメ界では異色の作り方をしている方です。絵コンテ段階でレイアウトみたいな詳細なものをガンガン描かれていて、しかも文庫で出版されたりしました。それで絵コンテはあんなふうに描くものだという誤解が広まってしまいましたが、絵コンテ段階ではホントはそんなに詳細はいらないんです(笑)。舞台とカメラ位置、その舞台への人の出入りと演技とセリフとが決まり、カット割りがわかればいいんです。
氷川:それに対してレイアウトのほうは、最終的な画面づくりの出発点であり、詳細な設計図です。このカットはカメラがこの人からの視点で、こういう角度で、何ミリのレンズを使って、このくらいの距離で撮りますということを決め、被写体の配置や動き、カメラワークも指示します。まさにこういうものです(下記レイアウト図版参照)。氷川:これは庵野さんが描いたレイアウトです。絵コンテではここまで描かないような、空間の半分くらい細かい被写体が置いてあって、残りの半分はスコンと抜けている、そんな密度のメリハリのつけ方などが分かります。最終的に観客がどんな印象を受けるか、重要なことは全てレイアウト段階で決めるのです。このレイアウトの場合、ヘリコプターを飛ばして上空何メートルくらいから撮っているというシミュレーションを絵の上でして、その撮っている気持ちをお客さんと共有するために描れていると思います。
氷川:本来の映画美術は、ロケも含めて美術とされています。画面の見栄えを決めることが美術の役割です。ロケの場合は野外になりますが、室内だと大道具を設定し、そのための図面を引いたりする役職なので、何となく「美術さんは大道具担当」みたいなイメージをお持ちの方も多く、テレビ局では特にそういう感じがします。でも映画全体の世界観的なもの、役者以外の空間をつくり、その美意識すべてをコントロールするのが美術の仕事です。アニメの場合はまた特別で、ロケがない分、すべてを背景画に描き、キャラクターの後ろに置かないと、そこに世界が出来てこないんですね。それで、美術と言えば背景マンのことと思われがちになった。そんな歴史的経緯があります。
野呂:なるほど。
氷川:美術設定の具体例で説明しましょう。本来は美術監督が美術設定を描きますが、複雑なメカが絡むものはメカデザイナーが線画で描きます。ヤシマ作戦の美術設定をなぜ2枚載せているか。左はヤシマ作戦を敢行している山の全景で、この山の頂上に相当するのが右側の絵になります。
野呂:あー、そういうことか。
氷川:注目してほしいのは、クレーンの位置や、周辺に並んでいる細かいものが共通に描いていることです。だから、頂上にカメラが寄ったとわかるし、そこから舞台になる空間が見えてくるわけです。実は前から疑問なのですが、こうした美術設定の見方はほとんど説明されていません。アニメーターになったつもりで見るとわかりやすいんですが、美術設定を何枚か関連づけて見てみると、「こことここは同じもの」というサインが必ず入っています。この場合だとクレーン、陽電子砲のチャージ用パーツなどがサインで、最終画面でも観客はそのサインを追って脳内に空間を作り出します。なので「こことここが同じ」みたいに指差して追いかけ、頭の中に空間を想像して読むのが正しい読み方です。ほら、ヤシマ作戦の舞台となる山の形やエヴァの配置が、設定からなんとなく見えくるでしょ?
氷川:美術ボードは、美術設定の線画に色を付けたものになります。ただし最大の違いは、輪郭線がないことです。アニメのお約束として動くキャラやメカには実線の輪郭線がある一方、動かない背景には実線がありません。例え話ですが、動くものは日本の浮世絵みたいなアウトラインとベタ塗りで描かれ、背景は西洋絵画の油絵のような描き方と分かれているのです。背景マンは美術ボードを見てレイアウトの背景原図から個別カットの背景を描いていきます。だから美術ボードには実線がありませんが、その分、美術設定にないものをすべて描くことになります。
野呂:美術設定にないもの?
氷川:色彩、質感、空気感、光の感じなどで、いま昼か夜か、何時ぐらいかなど大事な情報も含んでいます。かつて60年代・70年代のアニメでは、美術監督は設定とボードの両方を描くものでした。今でも作品によってはそうです。1974年の『宇宙戦艦ヤマト』のころから、美術監督だけでは生み出せない複雑な世界観や、メカに極めて近い複雑な背景を要求するSF作品が増えました。その結果、メカデザイナーが美術設定を描くように変わっていきました。1990年代後半からデジタル制作になり、色味や空気の感じがアナログの時よりも細かく調整できるようになり、多くの作品が美術に凝るようになりました。90年代のエヴァンゲリオンと新劇場版の最大の違いはそういうところにもあります。
野呂:リアリティというか。
氷川:特に臨場感ですね。そこの場所にいる感じは、美術が撮影と連携して責任を負うものです。『全記録全集』には美術設定と美術ボードが別のページに掲載されていますが、ぜひ同じものを見つけて見比べてほしいです。どういった要素が足されているかを。
氷川:新劇場版になった時の変化も、『全記録全集』のひとつの読みどころですね。CGの資料がものすごく多いんです。なぜこんなに多くなったかというと、デジタル部(通称「デジ部」)を社内に作ったからです。『:序』の時は社内の4人が外にも仕事を出していましたが、次第に人数が増えて、今では数十人の大所帯になっています。庵野さんは始める前に「CGとは仲良くやっていくしかない」という言い方をしていました。『:序』が2007年で、2004年から2005年ぐらいまでは、CGより手描きの方がいいのではという論争が、まだ残っていました。2007年くらいだと、まだまだ高価だし「CGは固い」みたいに拒否反応がありました。世界的にはCGアニメと言うと、キャラクターも背景も輪郭線がなく、カゲが無段階のフォトリアル(写実的)が主流ですが、日本のアニメは浮世絵文化の末裔だから、アウトラインがあってセルアニメに見えるようなCGの方がいいのではないか。ちょうどそういう時期に『:序』が作られました。自分は「セルアニメに擬態する」という言い方もしていました。
また、庵野さんの想いとして、「滅亡しかかっているミニチュア特撮の継承」ということもあると思います。CGも発達して次第に安くなり、費用、場所、特殊な技術などの点で、ミニチュア特撮が衰退の危機を迎え始めていたんですね。だったらせめてエヴァの世界で継承したいと。その想いは、2012年の展覧会「館長 庵野秀明 特撮博物館」の開催理念にも、しっかりと繋がっています。ミニチュア特撮を再現したくて、自分のための特撮チームとしてデジタル部を作った部分もあったようですよ。
野呂:え? アニメーションで特撮をやりたい?
氷川:特撮的なセンスで、手描きでは不可能なアニメの絵づくりをしたい、と言った方が正確でしょうか。手描きについては、昔からエヴァをやっている人たちもいるので心配ない。新しい試みとして、アニメの中に特撮を持ちこむことで、CG専門の方々が考えつかないようなことを試してみる。それもひとつのミッションだったと想います。そのおかげで『シン・ゴジラ』の時、プリヴィズという動く絵コンテのような映像も、カラーの中で制作できるようになりました。
後半、かなり駆け足になってしまいましたが、大枠を語り終えました。続いて最後のコーナー、ご来場いただいた皆さんからの質問コーナーです。
Q:『シン・エヴァ』公開後のエヴァってどう展開していくと思いますか?
氷川:それは楽屋でも話していましたが、知りたいのは僕らのほうです(笑)。『シン・エヴァ』がどうなるか、まだ何の情報も入っていないので、答えようがないということです(笑)。 公表されている事実の範囲で話しますと、庵野監督は2000年くらいからずっと「いろんな人にいろんなエヴァを作ってほしい」と言い続けておられるんですね。そういう展開もあるかもしれません。ガンダムにたとえれば『Gガンダム』に相当する作品で殻を壊し、また新展開を呼びこめないか。そんな風に自分は解釈しています。とはいえ、こうしたことは日々変わるので、神のみぞ知るでしょう。でも、いいんですよね、それで。想像することが楽しいので。
Q:エヴァ以外でエヴァンゲリオン的なロボットのデザインを見たことがないのですが、エヴァンゲリオンのデザインの元ネタってあったりするんでしょうか?
氷川:山下いくとさんの独特な世界ですよね。腕にしても、一般的な巨大ロボットのような角柱や円柱ではありません。全身にわたって、複雑な曲線と曲面を組み合わせて美しくし見せていくデザインなので、なかなかアニメ-ターが描くのも難しく、だからそういうデザインが他で使われてないのだと思います。ただエヴァンゲリオンのTV放映が終わったあと、エヴァっぽい曲面の多いデザインが一瞬ありました。一方で、プラグスーツのデザインは世界的な影響を及ぼしていると想っています。『アベンジャーズ』のスーツのパーツ処理を見ても、「エヴァ以後のデザイン」になっていますよね。
野呂:プラグスーツはそうですよね。
氷川:直接の影響ではなく、二次拡散、三次拡散した結果かもしれません。特殊スーツの研究をやってみれば、エヴァ以前・以後でガラッと変わっていることがわかるはずです。
Q:氷川さんがエヴァ以外でお好きな庵野監督作品は?
氷川:やっぱり『トップをねらえ!』ですね。あの第6話まで見終えたときの感動は、何と表現していいか分からないものがありました。最初はスポ根のエゲツないパロディみたいに見せるところから始まり、最後は時空をはるかに超えるセンス・オブ・ワンダーに連れて行かれる。女子高校のミニマムなところから、銀河系サイズのマキシマムまで拡大する。あのサイズ比、あのスケールメリットは、日本のアニメ史上最高レベルでしょう。まあ、巨大ロボットが銀河系をつかんで投げるような作品もあるから最高じゃないかもしれませんが(笑)、リアル寄りの世界観だとね。というわけで、『トップをねらえ!』です。
ここでイベントはタイムオーバー。続編を期待させられる内容となりました。また、最後にハードカバー版『全記録全集』に収録されていた、氷川さんが手がけたクリエイター・インタビューがエヴァンゲリオン公式アプリEVA-EXTRAにて配信されることがアナウンスされました!
現在、公式アプリにて冒頭無料部分を公開中。全文(有料)配信については近日公開予定。最新情報はエヴァ公式Twitterアカウント(@evangelion_co)にてお知らせします。
次回エヴァ公式のトークショーは2月4日(火)に開催決定。「エヴァンゲリオンシリーズ映像商品全部解説します~わかりづらくて誠に申し訳ございません2020~」と題し、映像商品からエヴァの歴史を振り返るトークショーとなっております。
ぜひご参加お待ちしております。